ていません。それでもやっぱりこうして私は書きます。
芳しく あたたかく
夢にあなたが舞い下りた
恢復期の寝床は白く
その純白さは
朝日にかぎろい 燃ゆるばかり。
昔 天使が
信心ぶかい乙女を訪れてとび去った
跡は
金色羽毛の一ひらで
それと知れたと
いうはなし
翔び去ったあとはどこにもなくて
そこに
もう
いない あなた
虹たつばかり真白き床に
醒めてのこれる冬の薔薇。
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[自注2]明月詩集――ながい年月の間には、いくつもこういう詩集がやりとりされた。書いたものと書かれたものとの間にだけ発行された詩集。
[#ここで字下げ終わり]
一月二十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕
今日は寿江子さんが用足しに出かける処を急に取やめとなったので、二階に来て、私は思わぬ幸にめぐりあったと云うわけです。
十三日から十五、十八と、なかなかたっぷりした戴物で本当にありがとう。まず十三日のから。そちらに飴玉とユタンポが有ってまあまあでした。成る程昨今では袋へ入れる鉄くずがないわけですものね。然し、ユタンポは二十四時間持たせるのには大骨だし、殆ど不可能でしょう。手間が大変ですね。それでもよほど助かるでしょうからいいけれども。防寒の為にタオルでも頭におかけになったらと云うのはフワリと上からただ掛けておくだけのことで、顔までかぶると云うわけでもなかったのです。年始に目白の先生が来た時その話をしたら、寒すぎて頭がジンとして苦しいよりはその方がよかろうと云うことでした。芝居の道行で、女や男が頭に手拭を吹流しにかけて行きつ戻りつするでしょう、あの調子よ。ユタンポでその必要もないかも知れないけれど。
島田の生活のことは、全く色々大変だろうと思います。新設の工場が不向きだと云うことも確ですし。お母さんは、でも、体を丈夫に気を楽にもつと云うことを、心掛けて暮すと云っていらっしゃるから助るけれども。トラックを二台売ったりすれば、今のことだから、一寸まとまった金が入り、それを土台に何とか地道な方法が立てば良いと思います。
色々な処で、色々な形で堅気な人間は、生活の方法に就て苦心をして居りますね。あなたから折にふれ慰めたり、励したりして戴くことは、あっちのみんなも心強いことでしょう。本は
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