ンさんが電話をかけてくれ、騒動を承知でお祝いのあんこのお菓子を一寸持ってきてくれましたが、これが災難の始りで、ペンさんはその夜はとうとう帰れず、夜中の二時に泰子を負って寝かしてくれるというさわぎでした。きっちり二十四時間もかかってけいれんがやっと下火になりました。十七日の晩は、ですから皆半徹夜で、私が菊そばへ電話かけたら、気分が悪くなってはきそうになりました。天丼は無事平げましたが。
ざっとこういう一日でした。これはほんのあらましの話で、酸素吸入をするとか、それがないとか、注射をするとか、その針がないとか、バタバタで咲枝さんはよくぞ持ちこたえました。若しその時、パンクすれば生れた子はガラスの保温器に入れて育てなければならなかったのです。
幾度か色々の十七日を経験しましたが、今度のは秀逸で一寸類がありません。
今度のお産にしろ、こんな泰子を預っておまけに何時空襲があるかわからず、眼もみえないアッコおばちゃんとしては中々の大役ですが、それでも今のような私の体の調子で、若しこんなゴタゴタさえもなくて、手をつかね、どなりつけることもなく、眼のみえない自分だけを感じているのだったらば、どん
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