った娘さんが代りばんこに大奮闘ですが、まだ自分では何一つ出来ない人を世話するのだから、心ざしはいじらしい程ですが素人ではヘバリ方がひどくて気の毒です。『寡婦マルタ』は家にあった筈ですからみつけてお送りします。本が不自由でなかったのは幸せでした。北氷洋の流氷の上で科学的実験をした人達の記録などは随分面白く読みました。最近『微生物を追う人々』という世界的な名著の翻訳が出ましたからお目にかけましょう。私は今寝床の上に仰向いてこんな話しをしているところへ寿江子が足許にヘバリついて涼しくない光景です。昨日から少しずつ「ピーター・シンプル」を読んでもらっています。この話は寝て読んで貰って聞いたりするのにふさわしい話で、私は恐らくこれから先何ヵ月もこうやって本は読んで貰って、書く事は書いて貰ってやるしかないでしょう。今日は長ものがたりになりました。

 八月十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 藤島武二筆「屋島山上の展望朝霧」(一)[#「(一)」は縦中横]、梅原龍三郎筆「朝の仙酔島」(二)[#「(二)」は縦中横]の絵はがき)〕

 (一)[#「(一)」は縦中横]十九日、今日は写真有難う御
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