この人の年の生活なんかを考えると、他人の世話をやかせて自分の気分を始末するということも変に思われますが、体が弱いという事実と、そこから生じている自分の習慣は一朝になおらないものでしょう。勝気な女の子が病気をすると、多賀ちゃんにしろ、自分の気持を支配して行くことが反って一苦労らしくみえますね。十七日には、私は大変珍らしいものをお目にかけようと思って、盛んにこっそりもくろんでおります。一寸想像がお出来にならないでしょう。勿論この節ですから、食べるものでも着るものでもありませんけれども。あと何行? もう三行よ。さあ何を書きましょう! 今は白い紙の反射がまぶしいから、例の色レンズをかけて物々しい姿です。今日は二階がきれいになって、大分気持が楽になりました。

 十月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 十月九日
 もう素足がつめたいので、びっくりしてそちらにあげる小掻巻の肩当をつけたり衿をかけたり。御存じの通りこの頃は元のようなビロードがなくなっていますから、顎にふっくりとあたる着心地の為にはやりくり算段例の如し。ペンさんが手伝ってくれていたので六日附のお手紙は七日につ
前へ 次へ
全137ページ中61ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング