の間にチラチラ岩の姿を見るように一通のお手紙のところどころ拾って自分で読み返すことも少し出来るようになりましたが、それはほんの数行のことで、しかもそういう時は勝手なもので、大変贅沢な好みがあって、用事のところなどは貴重な真珠貝のように拾い上げないのだから、あなたにはすみませんわけです。泰子の耳はいいあんばいに軽くてもう治りました。咲枝さんがもう今にも生れるばかりでお腹を重がっています。寿江子は体の調子が大変によくありません。そして国男さんは神経衰弱だというのだから、私のめくら腰ぬけから始まって、満足なものは太郎一人の有様ですから、不随の家族と言ったのは本当でしょう。国男さんは時代的な理由もあって、中々難局に面していて経済的にも底をついている状態です。事務所がその人の実力にふさわしくない負担になっていて、何《いず》れいつかゆっくりお話し致しましょうが、子供の様な大人の人達が困却している様子は気の毒でもあります。国府津行きのことはああちゃんのお産が十月下旬ですから、その頃は出掛けたいと思いますが。あなたもやっぱり私のように寝台自動車が動くものと思っていらしたのね。東京市内でもやっとで、あち
前へ 次へ
全137ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング