ない為、まるで氷砂糖でも歯なしがしゃぶるように大したものでもないオースティンの小説が、シンプル君以後の読み物で、然も前途遼遠という始末ですから。三枚になったがお許し下さい。

 九月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 九月十八日
 十六日附のお手紙、十七日頂きました。六日に書きとってもらった手紙が九日に投函されていたということは、如何にもここの家での私の生活の特徴と不如意の形をまざまざと示していて、中々感じが深いことでした。私は知らないのですから。ハンドバッグにでも入って三日がたったのね。マッサージはこの間の手紙で申し上げたように、私が夢中の間に体中の筋肉が痙攣のように緊張してひどい力が入って、すっかりしこりになっているのをそろそろなでてほごして、そちらの方からも神経の鎮静をしようというので色々研究して刺激が強くないように考えてやって居りますから御安心下さい。十七日の夜予定通り二人のお医者様が落合って、眼の検査をして下さいました。ビタミンBの欠乏による軸性視神経炎というもので、眼底に致命的な故障はありませんそうです。これは本当に嬉しいことです。盲目になり切る
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