今又違った形で神経疲労が出ていて、三四日前に夜一寸芸当を演じたりしましたから、若しかしたらもう少し鎮静してからの方がいいかも知れませんが、今日の内に両方へ電話をかけてみて、相談だけはともかくも至急してもらうことに致しましょう。でもね、この頃は大層成績が上って、上目を使っても目が廻らないし横目も出来るしすごいものです。ひと頃のように枕の上から自然にみえる範囲の伏目勝ちでどっちへも目玉が廻せないという様な有様から比べれば、たしかに人間並になりました。
『ピョートル大帝』の下巻は、もらわなかったから古本で探しましょう。眼の本はどうも有難う。誰が読んでくれるかしら? この字を書く人が二日置きずつにちゃんと来てくれることになったから、私は本当に気が楽になりました。眼のこともいずれ読んでもらいます。家の連中は私がもう死なないことがはっきりしたら、大分タガをゆるめているのよ。おかしいこと。
九月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕
十四日
今日の様な風を昔の人は野分の風と呼んだのは実感からですね。木の葉の音やその中にまじる昼の虫の音を聞いていると、野分としか思えない風
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