ら、私として親切に対する感謝と、実際上の見透しとは、必ずしも一致しないのは無理ではないでしょう。恋文の代筆が喜劇のテーマになることは、これとは一寸違うけれど、何だか思い合わされるような処もあります。
今度は前から持っていたプランに従って、古代から近世迄の女流作家の作品を読もうと思って、万葉や王朝時代の人達の物を幾らかまとめて読んで、色々と面白く感じました。万葉の女性達は和歌の世界へユーモアさえ反映させていて、そう云う生活のあふれた力が雄大さや無邪気さや、強い情愛となってあふれていて、その時代の女性ののんびりと丈高かった心の動きが、気持よく印象されました。斎藤茂吉の『万葉秀歌』上・下が岩波新書から出ていて、それで読みましたが、御らんになる気はないかしら? 紫式部と云う人は、矢っ張り立派な小説家だと思います。よく云われる悪文家だという評判はもっともで、ところどころ眠ったまま書いて行ったかと思うほど、抑揚のないダラダラ文章の処がありますけれども、それはたいてい具体的でなく、わざとぼんやり何かを仄めかそうとしている時で、例えばあのみにくい末摘花の哀れな姿を描写している場面や、玉鬘と養父の光君
前へ
次へ
全137ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング