駒込林町より(代筆 封書)〕

 八月二十七日
 この三、四日なかなかきびしい残暑なのでいかがかと思って居りました。暫くお手紙がなかったから。十九日の日付のを出してみて眺めていたら、二十四日付のを持って来てくれました。夜明けは涼しくなったとお気付きになるのは、余り夜良くお眠りにならないからでしょうか。どうぞくれぐれもお大切に。
 今年は私にとって、夏が年一杯つづいているような印象です。実に長い。秋らしい様子になって来て、ゆうべ等は月の光が射しているのに、雨が降る音がしたりして虫の音もしますが、庭をひるまカンカン照りつける日光には辟易です。簾を下げてマクマクしています。目は極めてのろのろと幾分ずつ恢復していて、お手紙の字なども、固い苦しい線の入り乱れたものから、昨日今日は字らしい柔かみを持った物となってうつるようになりました。用心して無理に読まないようにしています。字画はまだボヤボヤです。面白いことに、自分の手の先の爪がなかなか見にくくて鏡をやっとこの頃苦しくなく見られるようになりました。
 ビタミンのことありがとう。目下私の療法はビタミンの補給と肝臓の機能の補助で、終始一貫していて、
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