でしたがいかがでしたか、御注文の半ズボン、今日手に入れて、お送り致します。大きさはたっぷりしていると思いますが出来上り品ですから、長さは普通です。この生地一色しか有りませんが洗ってクタクタにならなければ幸せです。やがて、一ヵ月になろうとしていて、今夜は、月影が珍らしいので助けてもらって、久し振りで、夜の庭を暫く眺め、よい心持でした。ひるまはキラキラして、簾ごしにも庭は見られないので。目は字が見られる迄には、よほどの時がかかる様子ですし、大体四十二度以上の熱を患った者は大抵そのままになるのが多い例なので、そう云う病気の本でも神経障碍の実例は余り記述されていないそうですから、いよいよもって、運の強かったことを有難いと思わなければならないわけでしょう。もう少し、体全体が恢復したら、目の方の検査もして、恐らく、乱視の度が進んだでしょうから、それをはっきりさせます。目の宿題は、生理的、及び精神的宿題です。庭には畠が出来ていて、お芋(これはやや可)大根(これは全く未知数)赤蕪(肥って良)などが出来ています。鳩のヒナは三羽居ます。夜のしらしら明けから鳴きます。

 八月二十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛
前へ 次へ
全137ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング