れよ。
 さて十六日のお手紙へ。
 ビタミンBは一日の必要量は四ミリだそうで、私はメタボリンの六号を注射していて、それは五ミリです。一日置きに十ミリずつと、Cを十ミリ位ずつやっていますから、B1[#「B1」は縦中横、「1」は下付き小文字] の服用は今のところ必要はないそうです。咲枝さんが入院してしまうと、私は奥さん代りで気が落付かないから、一日置きに先生に来てもらう事はやめて、その間はメタボリンの錠剤とレドクソン(C)を飲み、若しそれで故障がなければ、来年の二月位までそれでやって、春から夏に備えてまた注射を始めようか、と思っています。お出で下さる先生は、所謂うるさ型で細々したくだらないことが気遣いのような質の人です。例えば自分が注射してもらっているのに、お茶菓子の心配をしているというようなのはいやですから、咲枝さんの留守はおやめです。一回十円も安くないしね。(然しこれは博士とすれば割引ですから苦情は言えません)この先生は親切は親切ですが、長年開業医としてだけ暮してきた生活態度がしみついていて、勉強好きなのも一種の穿鑿《せんさく》好きのようなもので、学問と生活態度とが散り散りばらばらです。やっぱりそういう風なのね。利巧すぎます。世間智がありすぎる。うちではその点いくらかへきえき[#「へきえき」に傍点]しているのですが。悪いお医者ではないけれど。
 眼のことは色々本当に有難う。あなたは私が少しずつよくなっているのを御覧になれないから全くお気の毒に思います。御心配下さる点は医学的にははっきりしているのだそうで、軸性というのは眼球外という意味なのだそうで、それは眼底を調べれば明瞭にわかる特色を持っているそうです。若し今日まで一寸も進歩しなければ不安なことだそうですが、少しずつよくなっていれば、それが順調で標準は四五ヵ月から半年で、それは特に眼や頭を使わない人での話だそうですから、恐らく私は十ヵ月はかかるものと思いましょう。ペンさんがその間にお嫁に行ってしまったら一大事だけれども、それならそれでしかたがないからうんとお祝いでもしてやりましょう。今も数えればまだまだやっと三ヵ月ですもの。私はその位度胸をすえて居ります。
 胚芽米、玄米のことは普通には出来ません。大体林学博士本多静六は妙な人で、自分は森林の値ぶみをしたりして、厖大なパーセントをとり、お金を作ったのに、雑誌へは一銭
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