筆「樹間」(一)[#「(一)」は縦中横]、福沢一郎筆「道」(二)[#「(二)」は縦中横]の絵はがき)〕

 (一)[#「(一)」は縦中横]綿入れやどてらが遅れて何と気になることでしょう。月中にはお送り出来ようと思います。夜着は今のでは冬が越せますまいから、厚いのが出来次第お知らせ致しますから、暫らく不自由をして頂いて、小夜着を下げて入れ替えましょう。ところがこれが又来月仕事でね。冨山房文庫はついでがある毎に気をつけてみていて店も調べましたがありません。忘れては居りませんから。毛糸足袋の専門家は今年赤ちゃんがいてだめだから、家で下手な繕いをしてお送りします。今日夏ブトンはまだ下って居りませんでした。これは用事ばかりの葉書ね。風邪はお治りになったでしょうか。

 (二)[#「(二)」は縦中横]今日はペンさんがわざわざ手紙の為に来てくれたけれども、くたびれていて少し熱っぽいから手紙の方は中止に致します。二十日に書いて下すった手紙に対して、私はよほどお礼を言うにも声に力が入ってしまいますから。今日の熱は別名を蒲団熱と申します。この二三日やっと冬の掛蒲団が出来て、今朝送り出したい為に、私は昨日一日「蒲団の様な顔」をしていたそうで、その疲れです。勿論明日は大丈夫。毛糸のジャケツ上下。手袋。お金。封緘。ビタス。等、明日発送します。くわしく又手紙で。十七日は奇想天外の一日でした。用事帳は早速こしらえることになりました。

 十月二十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕

 十月二十七日(今日はああちゃんの出産予定日なり)ですけれども幸い今のところは平穏無事で丸いお腹は納っているので、私達は二階で何日ぶりかのゆっくり手紙書きを始めました。
 今日はいい秋日和。空気がカラリとしてほっぺたがぽっと暖かいような日。こんなにいいお天気だと如何にもいい気持だけれども、私はまぶしくて自転車に乗って庭を廻っている太郎の顔なんかは真白な光の塊りにみえます。そこで思うには、昔の人が仏に後光がさしているとみたのは、きっとだいたい貧しい人で、少し眼が悪くて、自分たちの不運をお助けあれと願った時、きっとそれはピカピカ光ってまぶしくて白く後光がさしているようにあらたかだったのでしょうね。馬鹿な詩人は少年の顔から後光のさす浄かさを感じるかも知れないわね。ところが太郎は健全なる人間の子で泥まみ
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