のある襖のところで、やっぱりそういう意味のこと仰云ったことがあったわね。常に、甘やかすまいという戒心をもっていらっしゃるのね。それは本来的な意味でよくわかります。私も其は賛成だと思います。
多くの生活は、甘やかされているという言葉が、どこかに予想させる甘美さ、ゆるやかさ、和やかさ、そんなものは影もないプロザイックな明暮のまま、しかもゆるんで低下して、引き下った調子で、結果としては互に甘えて暮してしまうのね。
私の生活の味は何とこみ入っているでしょう。大変高級なのね。砂糖は殺してつかわれているというわけなのでしょう。しかし舌の上にしっとりとくぐんで味ってみれば、なくてはならない甘味はおのずから含まれているという凝った模様なわけでしょう。そうしてみればあなたは大した板前でいらっしゃる次第です。
「英国史」を書いたモロアの『フランス敗れたり』という本があって大層よまれています。これはフランスの敗北を政治家たち上層の腐敗として語っているらしいのです。いつかよんでみたいと思って居ります。この間よんだ本の印象を活溌に対比させてみたらきっと随分面白いでしょう。真の敗因を著者はどこに見ているかとい
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