トをとったりという次第です。
 友ちゃんももう会えないものとあきらめていたところを思いがけなかったので、本当にうれしそうです。私たちと感情表現がちがうのねえ。きょうなんか全くおどろいてしまった。だって、まあ! ともあら! とも電話口でどんな表現もしないのですものねえ。それで、しんからうれしさで動顛しているのですものねえ。こういう人たちの感情って十分思いやってやらなければいけないのだと思います。お母さんなんかは真率にお現しになるのだけれど。よう電話かけられてじゃのう、よかったとすぐおっしゃったのよ。友ちゃん、はっとして言葉も出ないというところ、いじらしいみたいです。ねえ? それミーのじゃろなどと姉さんと云っている、しかし何たる大和撫子でしょう。そんなことも可憐よ、いろいろと、ね。〔略〕
 もうそろそろ四時ね。広島へおつきになるわ。相生橋のそばに宿がありますから、この前のように郊外へ行くのでなくていいでしょう、その近所にお母さんのもとお泊りになったという宿屋もあるから。
 さて、ここで事態は一変いたしました。夜九時半頃、お湯に入りに来た河村さんたちもかえって、私は店をしめ、戸じまりをして二階へあがったら、チリチリチリ。いそいで降りたら「広島からです」、様子をお母さんがおききになるのかと思いました、私一人で困って居るだろうからと。そしたら、お母さんたちが着いたときは、達ちゃんボートこぎに遊びに出ていて、かえったらつろうてすこし歩いたら、おなかが痛いいうて、段々ひどいのでかえって、本部がお医者の家になっているのでそこへ見て貰いに行ったら盲腸だといって今知らせて来てであります、というの。
 やっぱり体がつかれていたのよ、可哀そうに。よくかえって一年経つと病気すると申しますが、それでも船の中なんかでなくて何とよかったでしょう。友ちゃん愈※[#二の字点、1−2−22]もってびっくりでしょう。さぞお母さんお困りと思い、すぐ行きましょうかと伺ったら、来て下さいということで、遠い電話口で私は些か金切声をあげて、手おくれにしないように、無理しないように、早く手術するものはするように、という次第です。それではとにかく浴衣でも持って三時何分かの上りで出ようということにして河村さんにも留守たのんだら又チリチリ。すぐ入院して、本部の命令で、家族は私物をもって一応かえるようにということだとあります。それでもお母さんたちは昨晩は広島に一泊。いろいろの様子をきょうきいて、そしておかえりになるということになりました。
 いい塩梅に、慢性でないし、ほかにくっついたものがないし、ただお酒が入っていて、注射がきいたかどうだか分らず、そうだったら迚も痛い目を見るでしょうが、ともかく命に別状はないでしょう。けれども私は恐慌よ、というのはね、一つの家族の中に盲腸の出る条件は共通なので大抵つづけるのよ。父の亡くなった年国男(夏)私(十二月)。お母さんも十六日にはすこし張ると云っていらして私はやいやい云って横におならせしましたが、もうどんどんバスにおのりになるし。
 こうやって今朝は平静ですが、ゆうべ電話口での声は一寸おきかせしたかったわ。ロバにこういう声もあるというようなところでした。だって前夜一時ごろまで飲み歩いて、と一緒にいた人がかえって話していたしね。お酒の入っている盲腸の悪化の迅さは天下一品です。戸台さんがそうでした。そのとき徹夜して手術の番をしていて、宮川さんというお医者様からそのことききました。倍のスピードで悪化するって。だからキーキー声も出たわけよ。広島で盲腸の手おくれで命をなくしてなんかいられませんからね。しかし、達ちゃんへの手紙で余りお酒のことはおっしゃらないで。素面《しらふ》で船にのれるだけ勇気のあるものは少いそうですから。気がもてんのじゃそうです。隆ちゃんなんかのこと考えるわ。あのひとは今どうでしょうね。もとは飲まず立って行ったけれど。お母さんがおかえりになったら(きょうの午後になりましょうが)そしたらこの先の様子つづけます。なかなか千変万化でしょう? 私のかえるのもこの調子では見とおし立たず。もうすこし様子みて決定いたします。塩十銭、五銭、五十銭というお客。バット一つ、あれ二つこれ一つというお客。なかなか立ったりいたりです。便利瓦ありましょうかいな、と云って入って来る。さあどうでしょう、そう云って店の鴨居に貼ってある公価目録を片はじからよみあげる。ありませんですね。そうじゃのう、お世話さん、どうもおあいにくさま。(ここの調子は名調子よ。)店には今肥料は一つもありません。豆タンの袋、セメンの袋、石粉。煙突左官などの材料。
 鴨居の品書き
          五吋  四・五吋  四吋  三・五吋  三吋
 石綿煙突  一本 三円  二・六三 二・二五 一・五
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