りましょうか。それとも例のひどく重複の分。
  合計 一九二・〇六也の内訳
 木島一・二回公判調書 四通 四七・五二
 同 三・四      四通 五九・一八
 袴田上申書      三通 四四・二二
 同・公判一二三回   四通 四一・一四
 それに対して、十円三十銭だけ支払えばよいということでした。前に一一〇・四〇支払ったのこり分として。どういう勘定で、今回はその金額が出たのか存じませんですが。
 この前に私の手紙で、その他と略したのはこの分ではなかったでしょうか。
 あとは速記で第一回が重複していて取消。西村マリ・加藤の件で重複して取消あり。
 これで分れば大いに結構ですが、いかがでしょうか。どうもあやしいものね。とにかく大変おそくなってすみませんでしたが、とりあえず。

 三月十日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 三月五日―十日  第十三信
 きょうは久しぶりで蓬々拝見してうれしゅうございました。余り蓬々だから顔の色がいくらか蒼く見えましたけれども、それは熱っぽくなくなった故なのね。そうして見ると、この間うちはほんとに火照《ほて》った顔していらしたこと。気持わるかったのでしょうね。うまくお癒しになっておめでとう。あとがなかなか疲れますから猶々お大事に。
 今かえって来て、佐藤さんの行坊とちょいと遊んで二階へ来たところ。お恭ちゃんが、そろそろ稽古に出かけるので、盛にカチャンカチャンバタバタをやって居ります。月水金は夕飯ひとりよ。まだ馴れないからいやです。私はこの頃ひとりのきらいなことと云ったら猛烈です。
 島田の赤ちゃんの名、志郎とはなかなかいい名ね。宮本志郎。わるくないと思います。美津代でしょう? お母さん、およろこびになるでしょうね。美津代でも志郎でもいいから元気で丸々として明るい子が生れるといいことね。私は実に繁昌よ。行坊、あのメチニコフのところの伸一郎、あの看護婦さんだったバラさんが二日にデコ坊を生みましたし、ほかの友達のところで最近一人生れるし、既に二人の女の子がいるし、林町、中野卯女、康子、ターンその他、無慮十二人は私にお人形だの犬だの猫だのを思い出せるのですもの。子供たちのこと思うと、大きい庭と長い廊下がほしいわね。その廊下をドタドタかけたりかくれんぼしたりさせて見たいと思います。十五年も経つと健造はもう二十七歳ぐらいよ。大したものでしょう。卯女、康子は十八歳の乙女たちよ。彼女等の生活はどんなに展開されることでしょう。
 太郎は学校になる前に是非泊りに来ることになっています。小ちゃいおばちゃんと私と三人でねなければいけないとなると、うちは大鳴動なのよ。其でも三月中には一夜その旺なるお泊りをやらなければなりません。今に太郎のための本棚というのをこしらえてやります、これは今に島田にも入用です。子供の本は私たちで供給してやりましょうねえ。子供の育つのに雰囲気というものは何と大切でしょう。そして複雑な気持でクスリともします。だってお母さんにしろ達ちゃんにしろ、きっと立派ないい子欲しいと思っているでしょう。いい子は欲しい、だが心配。そのディレンマ。本当にどんな子が育つでしょう。
 ボンボン欠乏のこと。その心持、こうしてかえって又手紙かいていると思います。本当は忙しいのよ。一刻が大切なわけなのよ。それでもやっぱりこうして書いている。妙ね。
 ものの味とは何と微妙でしょう。私はきっと今にボンボンの詩を見つけるでしょうと思います。フランス人ならきっと詠ったひともあるでしょう、美味を美の一つのものとしている習慣があったから。日本の「美味求真」ではどうかしら。いささかあやしいものです。
 いろいろのことが非常に書きたい心持です。いろいろのこととは何でしょう。いろいろ、いろいろの心持。字のない字で書くような心持。いろいろ書いているくせに何かもっといろいろ書きたいのは変ね。さアもう仕事しなくては、そう思って自分で僻《ひが》んでいるのよきっと。字で書くなんて! とふくれてもいるのね。無理ないよと云って下さるでしょう? 字でかくことは話すこと。何にも話したいというのではないそのときは、何で話すの? ああ。すこしじぶくるのは珍しいでしょう?
 何しろ私はこの頃あなたとけんかもしてみたいのよ。私たちはどんな風にけんかするでしょうね。どうも考えてみるに、ちょいちょい口げんかをするという風ではないらしいことね。わたくしは、たいへんおとなしい細君でありますから。たまにするとすれば、それはこわいでしょうか。こわいのはいやです。勿論こうしていてするけんかなんか真平、真平よ。もしそういうことがあればわたくしは四辺《あたり》はばからず、おーんとやります。
 さあ、本当にもうやめなければ。そして、御飯たべて、一がんばりしなくては。勉
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