いうの。やっぱり自分の原則をもっていてなかなかでしょう? きょうのひとは石井鶴三に見て貰いたいと云っていて、それはいいわ。お父さんというのは彫刻家なの。技術でやって行けず、工場へつとめているというような彫刻家で、それでも知人としては娘の助けになる専門家も知っているというのでしょうね。
 自分が初めて小説の長いのかいていた時分を思って、セイラーを着てスカートふくらがして坐っている娘さんを見ました。私は紫紺の袴はいていたのよ。凄いでしょう? そしてね、毎朝ぐらい鴎外が馬にのってゆくのに会ったのよ。鴎外は馬の上からいつも何となし私に視線を与え、私はそれを感じながら、自分は一寸見上げて、下を向いて通りすぎてしまうの。鴎外が私を知っていたということはずっと後に父からききました。
 茉莉さんが『明日への精神』のいい書評を『朝日』にかきました。この茉莉さんは、美学の山田珠樹のところへお嫁に行って破婚になったのよ。大した大した結婚式してね。その山田の家というのは下町の大商人で、孫は(茉莉さんの子?)白足袋はかすという家風なのだって。そんな家へやる鴎外、大臣なんかずらりと招く鴎外、そこに鴎外の俗物性が流
前へ 次へ
全590ページ中575ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング