っかりした本が出来たらと思います。文学としてしっかりしていて、本のこしらえとしてもチャンとしたの。
 今にきっと、私の手紙はその小説の誕生についての話で一杯になることでしょうね。先ず、あなたにそこに現れるすべての人物を紹介したいわけですから。
 仕事の配分と時間のこととを考えると、ユリもそうのんべんだらりとしていられないね、とお思いになるでしょう?
 私は、この長篇にかかる前の勉強としてモチーフということについて大いにこねるつもりです、文学上の理論としてというより、作家として自分の内部的なもののありようを見きわめるという意味で。私たちの文学において、このモチーフが気質的なものでもないし、主観的なものでもないし、しかも生活の中で生活されたものから生じるというところ、そこを自分に向ってマザマザとさせたいわけです。鶴さんの本を殆ど終りますが、六芸社の本を出してよみ合わせて様々の感想にうたれます。六芸社の本のなかで、小説的現実と云われていること、描写で追求しなければならないと云われていること、いろいろ又味い直し、この筆者の芸術的感情の本ものであること、しかし歴史の中では、いつも全面を万遍なく云
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