することは、天然の理法であるにかかわらず、と云っている。有三においてさえなお然り。このことには無量の意味があるわけです。或る作家にとって、例えば、一人の妻の心というものがあるとする、良人を思う心をかくとする。良人を思う心は抽象には存在いたしませんからね。きわめて具体的条件があります。その条件をぬいてかいたとして、妻の心一般であって、芸術的には独自性もありません。だから書かない。それだけその作家は宝をもちぐされている。何と痛切でしょう。作家はいつも一番かきたいテーマというものがあり、それをこそかいて力量をいっぱいに振えるのであると思います。そのテーマの一番必然なものをいつもよけているということの毒は、非常にふかいものですね。作家の渾身の努力は、いかにしてこのフショク作用にうちかつかということでありましょう。この努力がまたごくごく微妙です。
 本当に雨がサーッとふればいいことね。けさ一時曇っていただけでも大いにたすかりました。
 今年の夏は一つ修業をしようと思うの。それは風のとおるところでものをかく練習です。私は風が体に当るといやで仕事出来ない。でも、今年は二階に籠城でそんなこと云っていら
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