下のところが。
――○――
ここまできのう書いて、そちらでやっぱり汗の話が出たので、大変うれしゅうございました。四季とりどりの面白さは、何とゆたかでしょう。こもり居の夏、というような味はごく風流なものよ、滅多にない味よ、荷風だって存じますまい、おそらくは。そうして、そういう味いは、年とともに益※[#二の字点、1−2−22]豊富なニュアンスを加えてまざまざとして来るというのは又何と人間の心の微妙さでしょう。年々はその光彩を鈍らせるものとして作用しないで、段々深さを加えた深い淵のような渇望を湛えてひき入れるような精気を放っているのは奇麗だと思います。
その精気は溢れしたたって、それを語る瞳のなかにきらめきます。
きのうも沁々思ったのですけれどね、いろいろなこと用のこと話していて、大きな声で話していて、次第にその声が低くまってゆく調子、やがて声が消える、自然に向って低まってゆく思いの面白さ、ね。その速度ははやく距離は近いわ。痛切に思います、何と情愛の断面は全面的にひらかれているのだろうと。
虎の門へゆく電車は遠くて、こんでいて、もまれて立ちながら、私はその心の余波のなかにいる
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