本年も勿論つづけて居ります。五冊をのりこしたら、フーと大息をつくと思います。目に見えぬ土台というのは適切な表現です。本当にそれは目に見えぬ土台ね。年が経ってからききめがなるほどと感じられるような味がわかります。一昨年中によんだ何冊かのものについてもやはり同じことを感じます。或本をよんで、一旦はもう忘れたようになっていて、しかしどこかに蓄積されている。作品をよんでもそうです。但、私にはまだその底をつくてい[#「てい」に傍点]の理解が不足しているから、その肌身についての身につきかたが、例えば「北極飛行」などとは雲泥の差です。そこは遺憾ね。しかし追々読書力もひろく深く高くなって、消化しきれるようになるでしょう。実際わかるということのうちに、何といくつもの段階があることでしょうね。その段階の多さがやっとこの頃になってわかったようなところもあります。
小説のこと。今のところ、この前の手紙にもかきましたように、本月一杯に今日の文学を歴史的に見たもの百枚以内書いて、来月は「三月の第三日曜」をかいて、それから『文学者』へ何か短いものを書いて、それから『中公』の書き下し長篇へとりかかります。この長篇の
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