もりです。歩きたいひとは、どうぞとしておいて。
 きょうかえりに日比谷公園をぬけました。つよい風が欅の若葉をふきつけていて、柔かい葉房が一ふき毎に大変鋭い刷毛《はけ》ではいた三稜形になって、ああこんなタッチで描いたら面白かろうと興をひかれました。いかにも瑞々しく柔かで、それで瞬間の刷毛めはいかにも鋭いの、面白いものですね。それで截《き》られそうに鋭いの、若葉だからこそ出る鋭さで、そこが又面白いと思いました。嵐っぽい灰色の空のそういう緑の動きは美しいと思います。
 今夜はうちはみんな早寝です、雨の音を気持よくききながら早寝です、もうすぐ寝ます。
 そう云えばこの頃は水道がひどい渇水で、午後四時ごろ全く出ませんでした(きょう)。こんなおとなしい雨では、村山の貯水池の底までひりついた水が果してどの位ますのでしょうか。中途半端な都市というものの生活のシニシズムというものは。首都なればこそ水の憂いもというようね。明日は五月五日。きれいな濃紫の菖蒲の花を飾ります。

 五月五日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 五月五日  第三十三信(きのうのは二信ね)
 三日づけのお手紙けさつきまし
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