のは「昔の火事」というの。村がどんどん工場地帯になってゆきつつある近郊に、地主のよくばりと、その淋しい孫と、その土地から原始時代の竪穴が出て、そこで発掘が行われてゆくことと、そういう一つの生活の姿です。地主の猛之介は、「人間は儲けがなくてよろこんだり熱中したりは決してしないもの」という信念でいる。だから竪穴から土器が出るというと、それはきっと金目のものだろうと思うし、みんながいやにあっさりしていると、きっと甘いこんたん[#「こんたん」に傍点]をめぐらしていると思う。竪穴の発掘のとき、つきまとっているけれど、竪穴が原始の農業生活をうつしていると知ると、「ナーンダ、昔の百姓の土小屋か」とあきらめる。孫はおやじが、じいさんと財産争いで家出していて(養子)淋しいので、発掘に来ている青年になじんで、掘る手つだいなんかしている。一つの竪穴が火事を出した痕跡があって、その火事があったという生々しい身近さから竪穴の人々の生活へ実感ももち、みんなとわかれるのも淋しい。雨のふった日、ひとりで、水のたまったその竪穴のところへ行って、そーっと土のかたまりをゴム長の先でけこむ。水の底からの声をきくような眼色で。
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