ているそうですから休みの日を同じになるようにしてやって、母子で休日をたのしめばようございます。
今年の二十三日のために、何を頂きましょう。数々のほかに。去年はこの万年筆でした。なかなかよく役に立って、こまかいケイに沿うていろいろの幾万の字は皆このペンがつむぎ出したのですもの。今年は何を頂きましょう。何を下さりたいでしょう? こうして机の上を眺めて何がたりないかしら。私として何が欲しいかしら。このガラスのペン皿は決してとりかえたくないし。ベッドのよこのスタンドは、あの水色のよ。よくもつでしょう? これもこれでよし、と。時計だって何しろ夏は十五分ぐらいおくれるという、可愛いい生物があるのだし。何とマア私は何不自由ない[#「何不自由ない」に傍点]のでしょう(!)こんな折でないと私はきっと一つ帯留を買うことにしたでしょう。でも、今は駄目です。石にふさわしい金属もつかえないのですから。従ってそういう種類のものは駄目。本当に何かほしいこと。どうかお気が向いたら考えて下さい。あまりじきこわれるものもいやだと思うし。
私のお誕生日の祝の品先渡しというので、栄さんが新村出の『辞苑』をおくりものしてくれました。「座左」におきます。座右では手勝手がわるいから、座左、よ。栄さんは本月の『新潮』「暦」百五十枚ばかり、『文芸』に「廊下」四十枚ばかり、『中央公論』に「赤いステッキ」三十枚ほど発表しました。これは順々になる筈だったのに先方の都合でミンナ出テシーイマッタというわけです。栄文壇ヲ席捲スと私たちは云って大笑いなの。「廊下」についてはこの前一寸書きました。三つの中では「暦」が一等でしょう。栄さんのものとしてもこれまでの中で一等でしょう。栄さんもこれからが本当のウンウンです。でも面白いと思います。昔、栄さんのところで御飯たべさせて貰った某女史は、あの栄さんが、と申した由です。文学は普通の人からかかれるべきものです。最も豊富な意味での普通の人から。変りものが即ち才能者ではますますなくならなくてはたまりませんからね。×作家が東朝の五十年記念一万円の懸賞に当選しました。「桜の国」という題。大陸にからめたものの由です。二人の婦人作家が三十何枚かの筋書だけ出して、それで通して貰うつもりだったとは、トーチカ心臓だ、というような話もどこからかつたわる。藪の雀のかしましさというような趣もあります、こういう話は。でもたまにはこれも一種の解毒ではないかしら、などと思いながら書いている次第です。
『キング』の地図、おそくて御免下さい。もうじきお送り出来ると思います。もう返品になってしまっているので。
堀口大学からオオドゥウの『街から風車場へ』を貰い、よみ終り面白うございました。この作者のものは「孤児マリイ」、「マリイの仕事場」そしてこれがいいし、私としてはこれをなかなか買います。「光ほのか」が、どんな材料からつくられたかが推察されましたが、つまりは「光ほのか」は作為的であって失敗です。
省線の台数が減り、本数もへり、間が四分、八分、八分となるそうです。いよいよここはいいことね。目白の女子大が神奈川県との境の方へ敷地を買って、小学校、女学校、皆そちらへうつすプランを立てましたって。そしたら今年の入学志願者はぐっとへった由です。そうでしょう。ますます子供の通学ということは親の心痛事になって来ているのですものね。私でさえ多賀ちゃんが洋裁習うといってひっくりかえるバスにでものり合わしたらいやだと歩いてゆけるところをよろこびますもの、自分だってふとこわい気がいたします、折々。この頃バスは信用してのれません。どんなに輪がへって、脳天までビリビリしても市電が安心とは。
こんどいつか気分のましなとき、又お手紙を待っています。お話して、と子供がねだる心持は、こうして考えてみるとなかなか面白いと思います。子供がお話、といってゆく相手との心のつながりが。子供はよく申しますね、長い長いお話して、と。ねえ。
一月二十九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
一月二十九日 第九信
きょうの風のひどさ! 二階の南の空は正に黄塵万丈です、ガラス戸をあけるとすぐ目の中が妙になります。一天かき曇っています。こんなに干天で吹くのだから。火事がこわいこと。
お体の工合いかがかと思います。しきりにそう思っています、熱が落付きませんか? 風邪をおひきになりましたか? いけないわねえ、そう思っている次第です。何しろこういう旱天は体に実にわるくて、丈夫なものもすこしずつ異常です、太陽の黒点がすっかりこっち(地球へ)向いているからなのですってね。もうそろそろそれが移動している由です。来月の雨がそこで希望をもって待たれるのでしょう。
何だか様子が分らないので大分気になりますが、こちらからは呉々
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