は眼をキョロキョロよ。〓りにしろ誰かとしきりに心がけ中ですがありません。多賀ちゃんは来年の四月か三月まではいるそうですが、やはり誰かいなくては困ります。そのうちに又何とか事情が変るかしら。しかし昔は農家の娘が東京へ来れば白いお米がたべられると云ったのが、今は東京さいげば、南京米食わにゃならんぞい、ですからね。全然逆です。着るものだって、ちっとのお給金では銘仙もかえはしません。
達ちゃん明日あたり島田でしょう。お母さんへお祝いの手紙さしあげたとき、かえったとき人はなかなか落付けないらしいし、むしゃくしゃして腹立ちっぽくもあるそうですから、その気分は毎日、着実に家の仕事をやってゆくのが一番いいそうだからそのようにして、フラフラにさせてしまわないよう気をまぎらすことで解決しないからと申上げておきました。まぎらせる部分は、ごくの表面です。伍長にスイセンされたのをことわってかえった由、家のことを考えて。卯女ちゃんが、栄さんの会のとき、松山さんの男の子とお手々つないで歩いていました、もう歩くの。では又。
五月四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
五月四日 第三十一信
この間のときも雨になって、又きょうも雨になりました。どんな龍が昇天するというのでしょうね。疲れていらっしゃるとき、雨だとやすまるでしょう? 風がさっきみたいにゴーゴー云って吹いているよりはましでしょう? よく眠れるようでしょう。うちはたしかに雨の方がましです。ひどい風だからけさ二階の雨戸しめたままにして出て、かえって、今さあ雨だから、とあけて掃除したところです。
あしたは日曜日なのねえ、つい忘れていて、さ、あしたは早く出かけてと云ったら、たかちゃんに笑われて、アアーンアアーンと泣きまねをいたしました。
仕方がないからこれをかきます。きょうは、この前回よりはおくたびれにならなかったでしょうか。次まで間があるから幾分ましでしょうと思われます。
第十二巻は買うことが出来ました。近日届きます。てっちゃんのところへのお手紙、小説がよみたいというお話、私はこの間うちから思っていたの。そうなのじゃないか、と。そうなのが自然な気がして。ですから大変よくわかります。本当にいいものをあげたいと思いますが、近頃ではいいもの飢餓でね。きょう私がもってよんでいたのは、マルタン・デュ・ガールという人のノーベル賞をとった「チボー家の人々」の第六巻です。白水社から送ってくれてずっとよんで居りますが、少くとも主人公ジャックは真実をもってかかれています。「ジャン・クリストフ」なんかも今は、又別様の面白さでおよみになるでしょうね。こんど御相談しましょう、どっちかをおよみになったら? 人間生活の奥行の深さ、向上してゆく光景を悠々と描き出したものが、という御希望に、それはこれよ、これなのですけれど、と自分のものを示せたらどんなにうれしいでしょう。
人間生活の奥行の深さ、この表現は非常に豊かで含蓄的で、そして私のリズムに響きをつたえずにいないものをもっている。深い奥行のなかに、生きているもの、脈動しているもの、人間の行動の真の動機ともなっているもの、そういうあらゆる生々しいものがあるということは何とそれをまざまざと芸術に表現されてあるものとして読みたいでしょう。そのように表現しているものとしての作品をかきたいでしょう!
この正月に書いた「おもかげ」と「広場」とは、そういう人間の一つの姿と歌声ですが、それはひどい風に吹きちぎられて途切れ途切れに、しかも熱烈に響く歌声のようなものとなりました。
この二十六日づけのお手紙は、いろいろ大変面白うございます。ちょいちょいしたところが、おのずからちがったトピックのちがった語りかたとなっていて。わきに坐っていて、よそのひとと話していらっしゃるのをきいている面白さ、その面白さです。小説でいうと、題材が多すぎない程度でかかれている作品のゆとりのある面白さとでも申しましょうか。私はよくばりでしょう? オヤオヤと笑っていらっしゃるでしょう。でも私のこのよくばりは、自然なものとして自然承認されているのだから、相当でしょう? 私への一番いいおくりものだということは、国男君でさえ万々承知というのですから。
すっかり目白のところがきのが、一通あります。てっちゃん目玉クルリとさせて、肯いている。そんなものね。
スフ足袋物語、つめたいようでいつの間にかぬいで毛布に足を突こんでいらっしゃったという話。
覚えていらっしゃるでしょうか、いつか夜中勉強していておなかすいて来てゆで玉子をこしらえたら、何かの工合でむいたらカラについてしまって、まるでデコボコな妙な風になってしまったことがあったでしょう、あのとき、あなたへーんな顔して見ていらしたけれど、とうとうあがらなかった
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