揉めます。この間うちは、ああ、あついと云った次の日、どうしたんだろうきょうの寒さ、そう云って羽織を着るようでしたものね。でももうこの調子でしょう。
本についての家憲はお笑いになったでしょう。何となし書いていらっしゃるときの表情が浮びます。更始一新的行事、というのは全くそのとおりでしたし、そのことで遺憾は更々なしよ。ただ、この頃は古本が実にないし、それでマアあんなことも云って見るというようなものです。私の批評をかくということは、これはどういうのかしら。今の条件から自然になったのですね、あなたがおかきになれば私は安心して書かずにいますから。それだけは確だから。作家の感想ではあるけれど、と評論的骨格の不備について十分認めつつ一言を吐いたりする必要は客観的にもおこらなくなりますから。仕事の範囲のひろまりや成長というもののモメントは大した複雑なものですね。あのとき予定に入れてなかったというのは、何か全般のありようから極めて自然ですもの。ここにあなたが半ば私を励ますように云っていて下さるように、私だけのことではないと思います。それはそうだわ、ねえ。
疲れ、すこしお直りになって結構。やはり初めの間は随分御注意がいります。本当に体の調子に従っておやり下さい。そのことでは私は心から安心して居ります。正に御放念です、それは私の一つの大きい仕合わせですね、よくそう思います。
仕事のこと。きょうはすこしドンタクの日です。二三日息ぬきをして、又はじまり。三十日の日が所得税申告の〆切りで、去年からの収入を思い出してかきこんで、フーフー云いました。去年の五月頃から私の収入はあるようになって来たのですから、金額にすればまことにすこしです。『文芸』のなんか金にしたら何とひどいでしょう、文芸雑誌は相変らずよ、『新潮』なんか下げましたって、却って。いつぞや島田へ送ったりしたものの三倍から四倍以下ね。それから経費をさし引くのですが、私は多賀ちゃんと笑いました。こんな収入でそれこそハンド・トゥ・マウスで、すべて経費だわ、生きて、考えて、書いてゆくためのすべて経費だわ。これは一目瞭然ですが、税務署はこの真理が通用しません。それだけの金を得るための何かが別にあるように思うのですから、私は本代よ、たった三百円の本[#「本」に傍点]で、仕事が出来るでしょうか、笑止千万ですが、マアそんなものです。そこから基礎控除を五百円とりのぞくのです、私のような自由職業は乙種事業というの。それでもまだ納税最低の五百円よりはすこし多いから、いくらか払うわけです。作家なんて全く何万という収入があればそれは経費をわけられますが、さもなくては経費なんて実にこまるわけですね。だからY・Nはいつか税務署とケンカしたのです、あの小説をかくにはわざわざ南洋迄行ったのですからって。
こんどからは稿料をかきつけておきましょう、そう思うけれど、まるで蠅の子のような小さいものを一々かきとめるついそれより先に消滅するのですもの。電光石火とはよくぞ云いける、だわ。栄さんのところ、稲子さんのところ、二人分で率が高まるわけです、あの人たちは庶民金庫からかりて、よそのお倉にいたものを全部とりもどしました。そして毎月十五円ぐらいずつ金庫にかえします。
この頃はそういう工合の暮しね、どこでも。この間うちはキャベジが一ヶ一円いくらかで、半分かっていました。半分四十何銭というキャベジには恐縮いたしました。ふだんに着るような銘仙が一反十五円ぐらいであったものが二十五円―三十円です。絹糸はボー落したが織物はそのね[#「ね」に傍点]です。デパートへゆくと、もと四五十円の反物があったその並《なみ》に百円のもの、それ以上のものザラです。そして、本年は、これまでになかった新考案の織物が続出いたしました由。そんなキモノきて、六割南京米の入った御飯たべて、そんなびっこの生活に女は平気で、せめてキモノだけと思っているとしたら、度しがたい次第です。いろんな形式で、こんな空気は健全にされるものではありません。カフェーは夜十一時迄ですから、昼遊びの店へと変形しつつある由。同じ遊ぶにしても昼のそういう気分が生活にどれだけ深刻に作用してゆくでしょう。昼間暇のない人間は遊ばないという理屈もなり立つかもしれないけれども。
いづみ子のたよりお気に入ってうれしいと思います。あの子と睦しい好ちゃんの様子は、見るめもうっとりさせる風情ですね。好ちゃんの爽快溌溂の姿は目にさやかなるものがありますから。わきまえのいい子だけれど、それでもあの子が自分のうれしさや元気でわれしらず身じろぎする刹那も、なかなかの若武者ぶりです。私は気に入って拍手をおくる次第です。濃紫の菖蒲の花の美しさ。
林町のうちでは、まつ[#「まつ」に傍点]がお嫁にゆくのに代りの人がなくてああちゃん
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