二十九日あって一日たすかりますが、小説がのろくて困ったものです。
うちでは多賀ちゃんの風邪がやっとなおりました。それでもまだ遠くへ出かけたりする気にならない由です。私は、さては東京に当ったと云って笑いました、富ちゃんのお嫁は大体きまりそうです。きまったら割合早く式をあげるでしょう。お祝いには、腹をしめて働くように、バックルのすこしいいのをあげようと思います。20[#「20」は縦中横]前後の。いかがでしょう、もし何かいいお思いつきがあったらお教え下さい。バックルはいつだったかデパートで多賀ちゃんと見て、「兄ちゃんこんなのよろこぶ」と云ったものだから。野原のおばさまもさぞホクホクでしょうね。私たちが、先の女のひとのことを、そのことだけやかましく云ったって駄目で、生活全体が変って来れば、と云っていたその通りだと御感服の由です。
多賀ちゃんの方も、よくききませんが、Kという人に、はっきりといきさつを切った手紙、島田のお母さん宛の手紙と同封して送ったようです。サバサバしていると云われると、何だか却って私の方が苦しいようでもありますが、でも、生活のひろい視野が出来て、考えかたがちがったところもあるのでしょうし、それでいいところもある。余り狭いなかで反撥しての選択でもあったでしょうから。しかし、何だかやはり私は苦しいところがあります、その手紙貰った男のひとの心を考えると。この人生に持っているいろいろの可能の相異(外部的なものとしての)を考えると、気の毒です。お母さんはおよろこびのようで、「よりよい娘となって」云々とほめたお手紙がありました。
でも多賀ちゃんは面白い娘です、内へ内へと吸収してゆく性質です。そのために考えきれないほどで、初めはひどく疲れたと云って居ります。
いろんな女のひとがいろんな相談をもって来て、その話をわきできいているだけでも、きっと随分判断力はつよめられてゆくのでしょう。
眼の黒子は三月に入って、私がすこしひまになってからです、ひとりで行って万々一妙なことになるといけませんから。
林町のあか子はまっしろけですって。この頃ずっと行かないので寿江子の話です。
そう云えば、隆ちゃんが家へお金送ったというのはびっくりいたしました。あの僅の金の中からどうしてたまるのでしょう、金のつかい道もないところの暮しなのだろうと思いやります。
達ちゃんに送る本はこれ
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