。ではこんな紙で御免下さい。よみかえして見ていかにも塵っぽいガタガタ図書館での手紙らしくて可笑しくなりました。これも御座興でしょう。

 二月二十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 二月二十四日  第十七信
 十八日にね、一枚ばかり手紙かきかけて居りました。それにはこうかいてあります、
 ひどい風ですね、きょうは紀を夕飯によんだので、買物をしに出かけて、ビリアードの横を入って見たら、ふとんが干されて風にふかれて居りました。けさはずっと勉強していて、その間に云々と目のかわきの苦しさを訴えて居ります。本当にひどいかわきつづきでした。
 森長さん二十二日でしたか? それとも三日でしたか。ともかく、今は漸々《ようよう》ほっとなりました。
 忘れていられる時間が一日のうちに出来て、何と頭が楽になったでしょう。
 写真かえって参りました。割合早くかえって来たのも分るようでもあり、何だかというようなところもあり。
 きのうきょうで『文芸』のを終りました。「あわせ鏡」というのです。例えばたい子の小説、芙美、千代これらの人の作品は、一方に歴史をちゃんとうつして(正面から)いるもう一面の鏡なしには決して本質が明らかにされることの出来ない作家たちですから。特にたい子の作品は、反撥をモチーフとしているという全く特殊なものですから。実にひねくれているものですね、書いていておどろかれます。自分のもっているボリュームの全体でひねくれてしまった不幸な人です。
 きょうは土曜日でなければ、やれ、と机から立っておめにかかりに行けたのに。「三月の第三日曜日」はやっとこれからよ、可哀そうでしょう? 〆切が六日で校了であるそうです。でもこれは気持いっぱいにあるものですから、楽でしょうと思います。かきはじめたらなだらかにゆきそうです。娘の名は何とつけてやりましょう。弟の名は何としましょう。娘はヤスはどう? 弟は何か吉のつく名が見つけたいと思います。どうしても娘の生活が中心になりますね。そして、はじめはその日曜一日を書こうかと思ったのですが、もっといろいろかきたいから題も自然かわるでしょうと思います。
 月曜日にそちらにゆきます。明日、月曜日、すこしそのために歩きまわらなければなりませんから。何か妙な映画も見なければいけないの。「迚もいいわよ、可哀そうなのよ」という話題になるのに。
 この二月は
前へ 次へ
全295ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング