気もするので。いずれおめにかかりまして。
あした夜着もってゆきます。肩当ての布がいいのが(丈夫なのが)なくて、今、台所で染物工場がはじまって居ります。袷羽織、メリンス襦袢お送りいたしました。
ああ仕様がないわ、一筆なんて、こんなに時間かけて。木犀の花の匂りいくらかのこって居りましたか? もうあれも萩もちりました。これから菊でも植えましょう。犬考えたのよ、でも税のこと考えると。今年の所得を来年何しろ払うのですもの、その来年やいかに、でしょう? だから。
十月十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
十月十二日 第六十九信
きょうは大笑いなおみやげだったでしょう? ゆうべきゅうにその話になりました。あなたの御誕生日のおよろこびに何かしてあげたい、じゃ本もの見て貰いましょうか。それですこし日が早すぎたけれど、何しろ赤ちゃんというものは、いろんな都合があってね、雨ふればダメ、風ふけばダメ、くしゃみが少しつづけて出ればダメ故、善はいそげというわけでした。いかが? 小坊主は。親たちに似ているのは何と可笑しいでしょう。赤坊は物理的に私にだかれにくいのよ、そのわけは、私はこのように円いでしょう、赤坊だって丸いでしょう、円いものと円いものは接触面が全く小さいのよ、だから双方工合がいいということに行かないの。これも可笑しいでしょう?
あれから私がおしめの袋ぶら下げて家まで無事送り届けてかえりました。そして家へついた途端すっかり眠くなりました、赤ちゃんづれは気が張るのねえ。
七日づけのお手紙と八日のつづけて十日に頂きました。七日の、開巻第一に詩話がのって居りました。「ゆあみ」の話が。八日の午後は、すこしおそいおひるたべて吻っと一休みしていたら二時なのですもの。ぱぁーっと立ちあがって、いきなり着物きかえて、出かけました。全くもたない状態となって。そしたら八日に手紙かいて下すったというので、大変満悦なわけでした。
「朝の風」は十日にかきあげ、ひる前に共同へ届けました。重吉とサヨが現れます。絵画的な周囲の光景風景の感情、その推移と結びあわされつつ、サヨの重吉への心持を描いたものです。いろんな瞬間の。そして、その瞬間瞬間のつみ重りの間にサヨの感情の成長してゆく姿を。
「日々の映り」の直しのつもりでしたが、書いて行くうち全く新しいものとなってしまって、たたみこまれている
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