れ、丁度自信のない女優のように手を叩かれるのをガツガツとするわけです。そういう文学ばかりもとめる。同時に、偉いなら金まわりがいいだろう、という結論にもなってね。いろいろ悲喜劇なわけでしょう。
 私は皮肉さや辛辣さは抱いて居りません。ぼんやりとして深い苦痛の感じがあるだけです。『大陸』という雑誌があるでしょう。そこにあの小学校先生の縁者という若い人がいて、その人がどういうわけか大層高く評価しているとかで、この間御婚礼のとき、あの面長の御主人は大変私に向ってエミアブルでした。あれやこれやがこんがらかるのね。全く荒磯の小舟波にただようのでしょう。
 あなたがこういうことも、まともな据えかたにおいて処置し、平俗なごたつきをすまいとなさるお気持はよくわかるし、私の好みでもないことです、余り月並でね(川柳にしては深刻すぎるが)。天質はそれなりに歳月を経ず、生活の具体的な作用をうけるところに悲しいところもあるわけです。いずれにせよ、きょうはじまったことでないし、又明日に終ることでもないのだから、誠意をもって、やってゆくばかりです。十年経ってこれだけ、この先の十年で、又その先の十年で、とそういう工合のものでしょう。商売は口さきのものです。それはよくなかったと思います。云うことと腹とのちがい、腹はどうか分らぬ、そのことがひょいひょいと頭をかすめるのでしょう。もうこれでこの話はうちきりよ、よくて?
 今夜は仕事せず、この手紙だけで終りで休み。明日その翌日とやって、五日には又午後ゆけますでしょう。
『明日への精神』は再校が出て居ります。二十日頃には出来るのでしょう。金星堂のものろりのろりと。
『文芸』のは今度29[#「29」は縦中横]枚で、大体二十枚ずつで十三回、間に四十枚ほどのがあるから二百五六十枚ですね。それに年表、索引がついたらすこしまとまった本になりましょう。早くまとめてわたすこと! 文芸評論をあつめる話、繁治さんの知人の本やという男、全く評価がないのよ、私がどういう作家かもしらないし、勿論かいたものよんでいないのだから、この間明舟町の引越しでちぢかまって、延期ですって。こういうのをばかというのよ。繁治さんやすうけ合いで自分でこまったかもしれないが、いい心持いたしませんでした。
 どうか夜よくおやすみになるように。苦しい気持に何といろいろの内容があるのでしょう。私はよく時間的に大
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