いろいろの内部的な構成なんて、実に一朝一夕ではないものですね。だから作家の生活の周囲の意味が一層云われるわけです。
私はどうしてだか、この頃人間の心のゆたかさ、面白さ、その面白さの刻々の流れが、いやに新しくわかって来ていて、そのものが時々刻々の接触にないのが本当に本当に惜しくて仕方なく思われる折が多うございます。この心持を興味ふかく思います。何か作家としての新しい展開のモメントがここにかくれていることが感じられて。根源的には全く妻としてのそういう渇望がねじを巻かれて、そういうものへもかかわってゆく過程も面白いことね。なかなか面白いところね。では又お体を呉々お大切に。
七月九日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
七月七日 第四十四信
もうすっかり、本きまりの暑さになりました。なかなかでしょう、どうぞうまい工夫で、いくらかはしのぎよくお暮し下さい。私の方は、スダレをはったりして、結局二階へ籠城よ。
六日に一番終りの原稿を送って、ホッとしてそちらへ行ったわけでした。ですから、きょうは本当に本当に久しぶりにドンタクでね。ああ、ああと、腹の底から気持のいい太い息をついて、ゆっくり朝飯をたべました。午後三時からは如水会館へゆくのよ、そこで小椋さんの結婚披露がございます。あのかたも今度はやっと結婚出来るようになって、ようございました。前の婚約していて病気になり、ずっと経済的のことを見ていてあげたひとは、去年亡くなられたのだそうです。お互に苦しかったことでしょうねえ。でも小椋さんとしては、ちゃんとするだけのことをしてあげたし、その方もうれしい心もあって生涯を終られたでしょう。なかなか一通りでない心持の後の結婚ですから、友人たちも皆おめでたいと思っているようです、対手のひとは存じませんが、いろいろわかっている人のようです。
今月ぐらい気の張りどおしの月はなかったと思います。だってね、五月下旬からもう精一杯はりつめて、それでも大事な仕事を二つも出来ずに立って、かえって、それから五日迄、十何日という間に百四十枚以上の仕事したのよ、それぞれ勉強のいるのを。あの「昭和の十四年間」が八十八枚のうち五十枚、今度口述したり書いたりでしたし。それでも、徹夜というものはしなかったのだからほめて頂戴。二時になったと云ってシッポつかまえられましたけれど、でも、あれはねえ。そんなこ
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