とが一晩もなかったと云ったら、それは余り御体裁と申すものでございましょう。我が夫は天の如し、あざむくべからず、という家憲でございますからね。昼間フーフーでやり通すから、どうやらつづいているわけでしょう。その代り、というわけで、読書は御免下さい。迚《とて》もやれませんでした。又継続しますから御安心下さい。
私はこの頃図書館がすきと云うに近くなりました。あすこにいれば決してお客はありません。ちょいちょい何か囁《ささや》き合って、こっち見るひとたちはあっても、いきなりいつかのひとのように、そばへよって来るひとはマアありませんですから。本をよむにはいいわ、そういう勉強のときは。只、ものは書けません。特別室があればいいのねえ、大英博物館の図書館のように。そうしたら、本当にどんなに有効につかえるでしょう。でも、いろいろの点からよめる本とよんでいられない本とがあってね。そのことも面白い文化の諸相です。
ところで六月二十六日朝のお手紙の前の分というのは月が変ってもいまだに出現いたしません。どこへ行ったのでしょうね、又そちらのところではなかったのかしら。私はそれで本望だけれど、郵便やさんは字だけよむのでね、不便ね。(!)
二十六日のお手紙の紙は、ほんとにインクがにじんでかきにくそうだこと。こちらも紙は大変よ。原稿紙は本年ぐらい間に合いそうですけれど。このような手紙の紙、もうあと一二冊で、あとはどんなものになるのやら。やっぱりインクがにじんで大きな字しか書けないようなのかもしれません。
栗林さん、きのう待っていてね、又会ってかえりました。謄写料のこと申していました。一つ五部のがあったかしら、私がしらべて引いてくれと申しました。さっきこまかくしらべたら、五通とってあるのは全部で五種類でうち三つは、一部ずつさし引いて私たちとしては四部だけの分を払って居り、あと二種が五部のままで、それが五十九円八十四銭となります。ですから今回の分からそれだけ差引いて支払えばよいということになります。マア、これでいいのでしょう。私たちとしては仕事がダラダラとルーズでもいいということではいやだから、のことですから。こういう類のことはいつだって、そして恐らく殆ど誰がしてもたくさんの無駄はありがちのものですものね。もう一人のひとの事務所でしらべること、月曜日にいたします。
多賀子は、すこしましになって、う
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