ではないわ。人数は少いし、物がわかっているし、家庭はいざこざないし、大切な存在として、ちゃんと認められるのだし。まアめでたしめでたし。あなたの方へ達ちゃん手紙よこしましたか? 友子さんは? 達ちゃんきっと兄さんは兄さんとしてマアおかみさんがああだし、自分もこれで、と一寸わるくないのよ。
 私はね、いとど哀れな有様でした。というのはS子さんの姉さんでT子さんというのが田舎から来てね、何しろ大ファンでしょう、お忙しいのはわかっているし、すまないと思うがってなかなか雄弁で。上気せるような思いでした。それでもきょう、二十七日に渡す分をすましてやや安心です。きょうは上野図書館が定期休日。人が来やしないかとはらはらして居りましたが、どうやら今のところ無事。それでも徹夜はしないのよ、感心でしょう。私は益※[#二の字点、1−2−22]徹夜ぎらいです、誰も人の来ない朝、昼間、何といい心持でしょう。
 これから『文芸』のつづきのものを書いて、それからもう一つかいて終り!
 金星堂の本の表紙、かき直しのことお話しいたしましたね。今度は大変親愛な、本のなかみに気をひかれるようないい表紙が出来ました。それは街の風景なの。ひろい見とおしのきく街、こっちは角で、裏表紙まで往来が曲って来ています。街の彼方にはタンクや煙突があって、ワヤワヤした生活の音響が感じられます、そこが上出来なのよ。その生活の音のあるところが。柔かにグレーの色と薄いタイシャっぽい色、緑、白地にそれらの色がなかなか柔かくあたたかくてようございます。
 松山さん、子供が赤痢で辻町の大塚病院に入院していて、毎日池袋から通いました。その途すがらのスケッチよ。作者にとってもひとかたならぬ通りですから、うれしいと思います。でも画家なんて面白いわね。これはモティーヴを私が出して、粗描を寿江がして(小さく)そしてたのんだもんで、合作だねって苦笑いしているの、でも傑作よ。ところが合作の気がして第三者が認めるほど傑作の気がしないらしいの。題字は黒です。
『明日への精神』は寿江子がクレオンでかいてなかなかいいけれど。この表紙は火曜日のかえり社へもってゆきます。
 この間うちから日本橋の三越に東洋経済新報社の明治・大正・昭和経済文化展覧会があって、二十九日限りというので二十八日、一家総出で見ました。なかなか面白いものでした。統計表などで年代がちがうの
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