ょうは痛いの。珍しいことがあります。メンソレつけてなおすつもり。何と仕事がたまってしまっているでしょう。実にやりきれない、校正(小説集)は出てきているし。仕事なしで(出来ないで)十日すごすことは楽ではありませんですね。ではこれは初めの手紙の改訂版よ。どうか疲れをお大切に、呉々も。


 六月二十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 六月二十二日  第四十二信 島田の五つを入れると、ね。
 ああ、ああ、あーっ、というところよ。今午後四時。やっと日本評論の「昭和の十四年間」を八十八枚終りました。やっと肩のしこりがとれたようです。永い間の宿題で、本当に胸がスーとしました。十四年間の歴史は短いようですが決してそうではなくて、この数年間の動きは実に複雑です。一貫した現代文学史は一つもないから、こんなスケッチのようなものでも、せめて若い読者にそういう意味でのものを与えたくて。
 九年以後、芸術性をよりどころとしていた純文学が、どんなに自我を喪失して、文学以外の力にその身を托すようになったか、そのことからどんなに卑俗化、誤った功利性への屈伏、観念化が生じて人間の像が消えて来たか、その再生が今日と明日の文学の課題であるという現実の必然のテーマがあるわけです。こういう歴史の部は、塩田良平氏ともう一人とで持って(初めの方)昭和に入ってからは私一人でかいたわけでした。
 ほっとして眠たいような気分。寿江子がうしろのベッドに横になって本をよんで居ります。たかちゃんは病院から林町へ。
 明日は、金星堂の本の表紙のことで松山さんのところへ行かなければなりません。それから午後は座談会。月曜日はそちらへ参ります。島田、十日間、全く人の中でしたろう、そこへかえると仕事の用事で又人々で、閉口して、本当に襖をあけて、となりの部屋へ行って(動坂の模様よ)黙って頭くっつけて、美味しいボンボンをしずかに口の中から心の中へと味いたさで苦しいようでした。立つ前フーフー仕事して行ったから、休む間なしということになって。
 もうこれから、すき間を見ては眠って、この気分を直します。でもマアこれで一つは終って、万歳ですけれど。蜜入牛乳を呑もうと思います。御褒美に二杯や三杯はいいと思うの。口をつけ、仰向いて、しんから呑もうと思います。
 ところでね、ここに一つの面白い話があります。ゆうべ、ある本屋が来て(清和
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