朝は若い二人とも機嫌よい笑顔でようございました。お嫁さんは御飯のとき一寸下へ来るきりなの。そして夕刻から髪結が丸髷に結ってやって、又きのうの式のときそっくりの大した装をして、お母さんもそのなりをして、提灯つけて組合の家々をまわりなさいました。そしてかえって来てお嫁さんは髪を洗い、八日の里がえりの準備です。大したものでしょう? 全く飾られ、見られるための結ったり、といたり、着たりぬいだりです。ふだんだと式を家でして、そのまま夜通し客がいるのですってね。そして朝はもう女客、夜男客というのだってね。そういうお客は秋だそうです。そのときまでにお支度(キモノ、タンスその他)するのだそうです。
 八日にお母さんと三人|玖珂《クガ》まで行って、そこから湯野に出かけたわけでした。
 友子さんという子は可愛いひとよ。眼が三白《サンパク》っぽい(きっとそれが魅力なのよ達ちゃんに。だって婦人雑誌の口絵の女はそういう眼か、さもなくば睫毛の煙ったようなのですから)丸っぽい顔で、しなやかで、笑うときなかなかゆたかです。言葉だって何だってちっとも田舎ではありません。声もいいわ、ふくみ声の調子だけれど、ガラガラではないし。利発です、頭もこまかい。きっと大丈夫やってゆきますでしょう。ふっくりした手の指に私たちからあげた真珠の指環はめて、なかなか愛らしい花嫁です。島田のうちがヤレソレ、パタパタだからびっくりしているでしょう、せわしいんだもの。御飯たべるのも達ちゃんかげんしてゆっくりたべて上げなさい、さもないと友子さん一人のこるのだからやせちまうよ、というものだから、ちゃんとスピードおとしてゆっくりたべてあげて、達ちゃんもいい良人になろうとしているからようございます。あれなら女房は女房で、なんてことにはなりますまい。友ちゃんも達ちゃんがすきらしいわ。いいことね。
 私友子さんを見て自分が別格嫁なのを痛感した次第ですし、達ちゃんのお嫁さんの必須な人なのを一層明瞭にしました。お母さんのお傍にああいう調子でものの仰云れる若いひとが出来てやっと安心しました。こうおしね、ああおし、そうだろうという風にやっていらっしゃいます、そうでなくてはね。河村夫妻、熊野夫妻、鼻高々です。この二軒へは、まあ兄として謝意を表する意味で、塗物に銀で扇面をちらしたシガレットケース一組ずつおくりました。〔中略〕
 マア、そんなあんばいで
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