リの着物を着た男の子のあなたが遊びまわる様子を描きました。
それから、もっと大きくなっても、きっとあすこへはおのぼりになったのでしょうね、松の蔭にねころがったでしょう? そしてそのような時代になっての心は又それらしく、ね。
私は様々にそんなことを考えながら心持よく風にふかれ、段々奥へ入って行って、あの山からぐるりとまわって(左へ)あたり前の山中らしくぜんまいなど生えた径をぬけるとお墓がありました。そこへあのれんげ草のなかの一かたまりが移ったのです、うちのは、あのまま元の白い砂迄ちゃんとしいてありました。もって行ったお水をかけ花をさしお線香を立てお辞儀しました。ここも元は竹やぶだったところの由。よく日の当るところです。山懐ではあるけれど。こう書くと大体の見当がおわかりになるでしょうか。それから又同じところへ出て来て暫く砂の上に腰をおろして休みました。そして私は笑うの、上機嫌で。「たまの休暇としてくつろぐがよい、と云っておよこしになったが、まアこれでくつろいだということかね」と。本当に笑ってしまったのよ、あなたのたまの休暇には。考えてみれば、あなたは休暇におかえりになったことしかないのですものね。全権委任大使での出張とは、休暇と何という相異でしょう!
けさのこの小散歩でやっと田舎に来たらしい気になりました。多賀子はこれから広島へゆきます、例のお話していたたか子の友達ね、あのひとにあって、大体の意中をきくために。ついでにみやげのレモンを買い、東京迄の寝台券を買うために。十三日の寝台で十四日朝ついて、すぐそちらに行くしかないことになりましたから。サクラ、富士、どっちも駄目ですから。東京からの汽車はまだいくらかましですが、こちらから東京へは全くひどいこみようです、寝台もあるかしら。これさえあやしいのです。全くお話の外です。
きょうは疲れも殆どぬけて体も苦しくなく軽くなりました。来る前うんと忙しく途中ひどく、すぐつづけさまで、おまけに私の条件がわるくて、相当でした。でもきょうはもう大丈夫ですけれど。
あなたはいかが? こちらはなかなか暑うございますが。若い二人も今夜はかえって来ます。昼日中二人でよう歩かんから夜かえるのですって。そうねえ、一本道でヤレソレとのぞくんですものね。
十三日に立ち十四日朝おめにかかります。いろいろの用事、不便をなさいませんでしたか? こちら
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