私には、どうも本当の評論をかくひとの頭の工合というか、ものの考えようというか、自分が持って生れていないものがあると思われます。
そこまで歴史的に綜合的に生れていないように思います。勿論それでもやってはゆくのですけれど。
いづみ子の消息かいた手紙、もう御覧になりましたでしょう? あの子には、あなたがうちの男の子にお会いになるより、会いにくいので、たよりばかりということになります。私ひとりで会ったり余りしようと思わない心持、おわかりになるでしょう? これは面白い微妙な気分ね。会わせたいという心持と、これとは決して同じでないところ。私は、はにかむのですもの。そうでしょう? そして、そこに彼女やその幼な馴染みにふさわしい美しさもあるようです。
こんなにして手紙かくとき、手頸のやけどが、薄赤い柔皮で、こわれていたくて、きっちりと袖口を手くびにまきつけて書いて居ります。もしかしたら一日に行こうかしら。駄目かしら。今夜と明日一杯と、よく仕事して見て、その御ホービが出るか出ないか、というわけです。『文芸春秋』が十円の貯蓄公債よこしました。もし千円あたったら、何をあげましょうか。達ちゃんのお嫁貰うとき千円当れ、五百円でもいい、百円でもいいネと大いに慾をはって笑いました。
三月三十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕
三月三十一日 第二十五信
きょうは日曜、たのしい日、という子供の唱歌があるのを覚えていらっしゃる?
けさ、やっとつきました。二十三日にお出しになった分。どうもありがとう。いろいろたのしく拝見いたしました。
大名の奥方のこと、そうでしたか? 私は蘇峰はよんで居りません。そうよ、朝井、今川などの戦国時代なのはわかって居りましたが。それから、この題材に関して云われていること、大変興味ふかく同感いたします。菊池寛の例も大変面白し、貴司などの行った機械的現代化への注意も面白く有益です。これは特別面白く思います、雄山閣で元から『古典研究』というのを出していましょう? あすこで歴史文学の特輯を出すのですって。それへ二十枚ほど歴史文学について来月かきます。それを書くのは、初めことわろうとしたのですが、自分がやがて書くのに勉強になると思って、かくことにしました。菊池寛のテーマ小説のことは大変面白い。その意味で。私は鴎外の歴史小説を念頭に浮べて居り、漱石の歴史
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