るくするなどとは考えていないよと仰云るように、私もそんなこと思っていなかった。
連作手紙について、ありがとう。ここにとりあげられている点は興味ある点です。日本のいりくんだ生活のなげる様々の影は一様でないから、今日という一日のうちに、女大学式なもの、それから羽ばたき出ようとするもの、更に種々の程度で頭だけ、或は胸ぐらいまで或はやっと片脚のところ位迄、第二段目の歴史性から成長しかかっている者が、いりくんでいるし、一人の人間のうちに三つの歴史の時代が実に雑多な形でぶちこまれてもいる。女の生活においてこの三時代の錯綜の形は実に独特であって、この点をはっきり描き出す作家果しているやと思う位です。新しい生活を目ざしている女の生活でも、より高いモラルの創造、到達を日常生活で貫徹しているという場合はごく少いのは事実です。あっちやこっちが古いいろんなものにひっぱられる。客観的に、現実生活の諸関係のうちにある旧いものがひっぱっているから、相当に引きのつよい性格でも、決して図面で計ったようにくっきりとした一本の線を、でくまひくまなしにスーと押し出せず、皆えっちらおっちらと先ずこっちを出し、さて次にこっちを
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