けど、とにかく持って来た、と一つの袋を出しました。それはしっかりした日本紙の反古《ほご》に渋をひいた丈夫な紙袋でね、表にはそちらできまって小包に貼る紙がはりつけてある。「何だろう」猛然と好奇心を動かされました。「何なんだろう」とう見、こう見している。「サア、わからないけれど……」寿江子は勿論そう返事するしかないでしょう、私は余り特別な袋なのでフット思いちがえのような気になって、さては、あなたが何か工夫して私へおくりものして下さったのかと瞬間目玉をグルグルやりましたが、それも変だし、散々ひねくりまわした末「あけて見ようよ」と鋏で丁寧に切って中を出すと、何か全く平べったい新聞包みです。そしてどだい軽いの。そろりそろり皆が首をのばしてその新聞包をあけて見たら、何が出て来たとお思いになりますか。もう不用になった黒い羽織の紐! 三人三様の声で「マア」「アラ」「ヘエ」と申す始末でしたが、その紐はずっと私の枕元の物入引出しの中にちゃんと入っていて、私はマアと云ったって感情はおのずから別ですから一日のうち幾度か目で見、手でさわって暮したわけでした。一つの落しばなしのようでもあり、そうでないようでもあり
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