の尻尾めがけて注射しているようで滑稽ですね。私のは吸収性でなかったから苦しかったのでしょう。
こうして家にいると、目にもとまらないようなこまかい日常の動作のうちに、傷あとなど案外早くましになるのでおどろきます。すこしでもどうかという時期を病院で辛棒していた甲斐があって、かえって五日目ですが動作が楽になって来たし、つれも大分気にならなくなりました。もう切ったところへ手を当てずに歩けます。家の生活は微妙なものだとしみじみ感じます。病院にいてはない細々した立居、のびかがみ、ねじり、無意識のうちにしているそういう微細な運動で馴れるのですね。だからこれを逆な場合として見れば、或条件では、そういう数えることも出来ない動作で、病気をわるくしていることもあるのです。本当にこれは面白いところです。そして、よく医者が御婦人は特に御夫人は必要が生じたら決心して入院すれば二ヵ月かかる病が一ヵ月でなおる、という所以でしょう。おまけに病気をすれば、どうしたって旦那さんが病気しているより細君が臥ている方が気がひけるわけですから。
早くよくなったこと[#「よくなったこと」に傍点]にしたくて芸当など致しませんから、
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