と、うれしい。聖ロカはきっとこの廊下は公園に非ずという原則がわかっているでしょう。
 クリスティーの『奉天三十年』二冊お送りして見ましょう、そう云えば『闘える使徒』の新版まだ出ないらしい。あれとこの奉天三十年とは二つの照し合わす鏡のように、支那の五六十年間を語って居ります。奉天三十年の方がもっと歴史の各場面をはっきりと。この著者は伝道医師故、それとしての小鏡も手にもたれているが、読者はその鏡が、その持ち手にどういうものとして主観的に見られていたかということも亦判断出来て、ぎごちない訳ではあるが、よめます。
 この十日ばかりの間によんだものでは、これと、シュトルムの短篇とがマア印象にのこります。スタンダールの「カストロの尼」も一度よんでおいてわるくはないものでしたが。スタンダールの「赤と黒」や恋愛論は十年間に十何冊とか売れたぎりだったそうですね。「パルムの僧院」は一日十五時間ずつ労作した由。
 小橋市長の発案で、今度は都会文学というもののグループをつくって、東京の情操にうるおいを与えるそうです。顔ぶれは秋声、和郎、武麟、丹羽文雄、横光利一、もう一人二人。林芙美子、深尾須磨子諸女史はイタリ
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