杯になって、ひとりでに涙が出て来ました。どうしても泣けるところがある。ありがとう。ありがとう。私は、この頃自分たちの生活というものに深く腰をおろしいろいろ考え、しんとした心持で暮しているから、これらのことはみんな身にこたえてわかることが出来ます。私の真の成長の可能、私たちの生活からこそ花咲き得る筈の、まともなものを培おうとするあなたの真情がうって来、又、これまでの自分の何年間かの、一生懸命だと思っていた気持の様々の遺憾なところがいくらかずつなり見えて来ている折からなので、本当に乾いた眼で空々しく読むなど出来ない。涙は、私のむけたような心の上に落ちます。
 ユリには、この人生に、揉まれるなりに揉まれつつそこからぬけて行くようなところより、頭を下げ、体をかため、それに直線的にぶつかって、それをやぶって前へ行こうとするようなところがあり、而も、ときにそれが体当りでなくて、体当りの気[#「体当りの気」に傍点]でだけいるときがあるのだと思います。『乳房』の序文の言葉は、一つの責任の感じもあって、そのようなものとしてまとめてゆきたい(「雑沓」について、ね)という希望をこめて書いたのでしたが。しかし
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