彼が今日および明日よまれるとして、それは彼の生涯の歴史的な矛盾の姿がよませているのだから。この場合、スタイルさえもその矛盾の一様相として現れている。
 こういう筆致の生きている文学史が書きたい、今日の文学史が。ひどくそういう欲望を刺戟します。小説も書きたいと思わせる。この筆者の親友[自注5]の筆致はこうしてみると含んでいる何かがすこしちがいます。親友も実に卓抜であるが、こんなにはわたしを自身の仕事へかり立てない。これは興味がある点です。特にこの文章は大工のウエストン爺さんにわかりよいと同じに私にわかりよいからでもあるのでしょうが。
 この本の中にこういう忘れられない一句がありました。「時間は人間発展の室である」|時は金なり《タイムイズマネー》という比喩との何たる対比。人間が生活と歴史について、まじめな理解を深めれば深めるほど、時間がいかに人間発展の室であるかを諒解してくる。「睡眠、食事等による生理的な」云々と、時間の実質が討究されているわけですが、こういう一句は適切に自律的な日常性というあなたからの課題へ還って来て、それの真の重要性というか、そのものが身についたときの可能性ポテンシャリ
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