。「伸子」「一本の花」「赤い貨車」(これは当時の過渡性がよく出ている、私の)それらは、皆ハートから書かれている。自然発生的にね。それから一時期、沈み切らないで、今|漸々《ようよう》又自分でもやっと力の出し切れそうに思われる沈潜性が、粘りが、絡みが、生じはじめている。何と時間がかかるでしょう。何とあなたの忍耐もいることでしょう! そのために去年という年がどんな重大な一年であったかも思います。そして、面白いことね、思いかえすとき、去年ぐらい苦しかった年というものを、ああこの数年来本当に知らなかったと感じるの。実際又その質に於て、ああいう苦しさは初めてであるのも実際ですが。すこし話が飛ぶようですがそうではなくて、私は今年カーペットを貰っていいと思う。去年にはまだ現れなかった深まり、リアリティーが、夫婦生活に生じていて、たしかに一時期を画していて、今年はあれを貰うだけのよろこびとそのよろこびを最も真面目な努力のための滋液とし得るところへ来ていると思います。
 生活を創造するよろこび、それは決して単独では知ることが出来ない。樹々の枝さえ風が吹かなければあのようには揺れることが出来ないし、花粉でさ
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