きっちりとして、而も収穫的に暮してゆこうとする努力がたのしさを伴っています。小説をかくにしろ、夜昼ないようにくいついて短時間に書くのではなく毎日毎日一定数だけ(五枚か三枚)書きためてゆく愉しさ。よっぽど昔、一番はじめの小説を、女学校に通いながら書いていた頃のような書生っぽさ、そんなものが甦ります。そういうようにして小説も書けてゆくというところに、小説そのものとしての新しい意味もあり、書く意味も生活的に深いわけです。私は、前便で書いたように、若いときからすぐ専門的生活に入って、その旧習にしんでいたから、或時期以後、生活の形が変り、動的要素が殖えて来たら、そういう面が不馴れで、精一杯のところで、そういう生活全体をひっくるめて掌握して仕事をどしどししてゆくという実力が欠けていた、今ごろ、はっきり其がわかります。文学の上の仕事ぶりそのものに一般的にある旧態(世の中一般のことよ)は、私の身にもついているのですから。現在、私たちの生活の条件が、私の心にある自然な要求に結びついて、こうして徐々に徐々に私の生活能力を高めつつあるということは、つきぬ味があります。遂にそこに到達しかけているということのう
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