、昨夜見た夢はどこかアメリカの植民地で、ポプラーの大変奇麗な緑したたる並木道があり、そこを通りぬけてポクポク埃っぽい道へ歩いて出たら、むこうから人力車が来る。それが日本と支那の人力車のあいのこの形をして、白粉をつけた娘が三人も一台にのっていて、友禅の衣類をつけていて、歩いている私ともう一人どこかの女を、大層軽蔑するように俥《くるま》の上から眺め下して通りすぎました。そんな色の鮮明な夢。心理学者は普通夢に色彩はないと云いますが、私は夢としてすこしはっきりした夢を見るときは、いつもごくはっきりとした色彩を伴っています。
鴎外の、「妻への手紙」というのをよんで、別品《べっぴん》だの何だのという古風な表現をよんだものだから、きっとそんな夢で人力俥なんか見たのかもしれない。
『戦没学生の手紙』は、この本に日本訳されていない部分だけロマン・ローランによって紹介されているそうです。やっぱり一つ一つ特殊な境遇に生きた二十三四歳の若々しい心の姿があって、それが多くの幻にとらわれているにしろ、一律の観念に支配されて物を云っているにしろ、哀れに印象にのこるものをもっています。最後に私の心に生じた疑問は次の
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