根底が深甚であってね。客間というようなものをおかないという生活の条件がやはりここにも反映しています、大きい因子として、ね。誰か私のほかに人がいる、その点で。こういう避けがたい私の必要と、Sのお嬢さん的偸安とが結びつくことは警戒しなければならないのは確です。私の生活にも関係している点と仰云るのはよくわかります。人間の気持のずるさでSをだしにしたり、Sにだしにつかわせたりしては何にもならぬこともわかります。実際に生活しはじめるのは当分先のことですが。
 シャツのことなど、それは本当に、うまく気候にしたがってお着になるのがあたり前です。そのことで特別に弱くなっていらっしゃるなどという考えかたは決してしないのですから。本年は平均より七度近くさむいのよ。私は今年はじめて昼間も綿の入ったどてらを着て机に向って居ります、その位ですもの。
 では又明日。雪が降りやんで雀が囀って居ます。赤い花実にむかってする雀の啄《ついば》みやその啄みをかえそうとしてゆれる枝の景色はなかなかつきぬ風情をもって居ます。

 二月十六日(消印) 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(自宅の玄関付近の絵はがき)〕

 描いてくれた
前へ 次へ
全766ページ中114ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング