なければ落付けるものでない、とおっしゃったこと。耳と心にのこり、面白く翫味《がんみ》しています。この言葉の内に含蓄されているものはなかなか一通りではなくてね。人間芸術家としての成長の真のモメントはここにあると思います。そして、特に面白く思うことはその内容がまことにダイナミックであって、一擢きかいてスーと出た、そのところで又次の一擢きが要求されている種類のものであり、ただその一擢き一擢きを必然にしたがい、かきつづける気力が人間にあるかないかというところがある。沖へ出れば、そうぐるりに小舟はいませんものね、何となく波うちぎわをふりかえり、そこと自分との距離を感じる方が多い。そこでたゆとうところにブランデス時代の天才の悲哀が語られ、誇張もされていたわけです。
 人生における背水の陣の意味を一たび理解しそれに耐えるものは、追々成長の異った段階で、一層新しい発見をするから面白いものです。
 合理的な生活を希っている道の上に不合理として現れて来る例えば手伝いのことなど。今日では不合理性が、見つけるにむずかしいというような末の現象からしてさえ実にはっきりして居ります。しかも私の日々にあっては不合理の
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