りのわるいような子供っぽいような声で喋っています。面白いわね、たかちゃんの方が年下なのに、姉さんのようよ。
 これは今のところ笑話めいていますが、野田の爺さん、あの野田、あれが隆ちゃんを養子にほしいと云ってお母さんはのり気でいらっしゃるって。勿論まだ本人がいないのだから、あなたがお含みおき下さればいいのですが。あすこには気ちがい息子がいて、おやじを刃物で追いまわすのよ、私は隆ちゃんがそんな奴に刃物三昧に会うのは大嫌いよ、誰だってね。では又近日中に。月曜日そちらのかえりに図書館。
 お大切に、ああなんて終りが来ないのでしょう、サヨーナラ。

 十二月二十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 十二月二十四日  第百十六信
 二十三日のお手紙、きょうは東京市内らしく二十四日のけさつきました。すこし私は豊年らしい気持になります。こうしてつづけてお手紙頂けると。ありがとう。あのおばさんの手紙にかんしゃくをおこしたのはね、不明瞭に、つまりかんしゃくらしく書いて、そういう意味にとれたかもしれませんでしたが、私としてはすこしは多賀ちゃんの将来に役に立つよう稽古(洋裁でも)させて、島田の家を手つだっていてくれたために私は安心していられたこともかえしてやりたいし、いろいろ生活の気持、ひろくしてやろうと思ったのに、小母さんは、「気のおけない宿で治療して一ヵ月でかえって」とパタパタ、黒子ばかり中心に軽々しく考えるように云っていらして、そのことでかんしゃくをおこしたのでした。お手紙に云われているところに重点はなかったのよ。その点、そう敏感でもないわ、だって、そうでしょう? 土台たねがないことは自分でよく知っているのですものね。でも一般的なこととしてはよくわかります。私はそんなに見えて? あなたから。もしそうだとすればそれは私にとって悲しいことだと思います。そういう小悧巧さを私は大きらいなのだもの。女のリコーの一番けちくさいところですよ。
 車のことね、達ちゃんから返事があって、貸すのですって。大体売るのではなくてかして 3,500 ということなのでしたって。かりる方は二年ぐらいの期限でなければ償還しないというのに、こちらは五月ごろ達ちゃんかえれるというわけで、それ迄というので、それでは時間的に不便ということで車は元のまま。それにKがいたって明るい気分で又働いているというのは何よりです、それに台所を手つだうひともいるというのですし。お母さんへは、袋の代り帯をお送りしたこと、申しましたね。今年はお母さんも、やっぱり来年は買えないからコートやショールおこしらえになった由、そこへ偶然新しい帯でマアいいわね。仲仕ももとのひとがいます、大きい体の。私に「こけんとおいで」と云った男。「東京は遠うて、こけてもようおこしてあげられんで」と云った男。
 南江堂の本。そうねえ。でもマア御一覧です。
 表。この頃は徹夜しない、を原則で、そのために手もはれずにやれました。表は、ばからしいようで、あれでやっぱりいいのね。この間うち子供たちのいた間、九時すぎが何日かつづけられました。疲れも出ていたし。
 毛糸足袋のこと、ああそうでしたか。きのう、お正月用外出用の大島綿入、下着、羽織送りました。冬の間外出用をかねて居りますからそのおつもりで。手袋。古いけれども御辛棒。スフよりましですから。行火《あんか》のタネがあってよかったこと、どうかしらと思って居ました。謄写のことわかりました。
 全く今年の暮は珍しいことね。三人ですから。去年は病院であったし。私としては賑やかなような寂しいような、よ。二十六日には参りますが、気になさらないでいいのです。お正月どうしてお暮しになりますか。よみもの何かあるのでしょうか。何年か前のお正月思い出します。「お正月どうしていらしたの」と私がきいたら「ねころがって雑誌みていたよ」と云っていらしたわね、万惣の次の正月のこと。今年はどうしてお暮しになるの? やはりねころがって? 雑誌みて? 私は、ひそかにこの雑誌みて、という表現にふくまれているものを感じて居ります、あて推量かしら。
 たかちゃん、きょうは障子をはっていてくれます。藤江が一月の六日にかえります。十五日ぐらい休んで又来ることにしてあります。たかちゃんも、洋裁の稽古と台所とを一度にはじめては馴れないうちくたびれたりするといけないし、寒中は藤江をおいて三月にでもなって、たかちゃんがその気なら藤江なしで二人でやります。藤江に 40.00 はらうとすれば、十分たかちゃんの勉強費は出るのですから。でも私は、自分が気を立てて仕事しているとき、一々人の出入りに下りて行ったり何や彼やとても気がうるさいようなら藤江おいておくかもしれず。中央公論社で書き下しの長篇を云って来て居ります。それを来年の春から夏へ
前へ 次へ
全192ページ中188ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング