うれしゅうございますね。そしたらきっとすぐお嫁さんの話で、その方もきまれば私たちは本当に安心ね。何と気が休まるでしょう。お母さんが、五月迄と思って待っていらっしゃるお気持、沁々思いやられます。けさは、私はどうしても終る仕事があって一日家居。多賀ちゃんもひとりで市場まで行ったりして、やっぱり家居。明日は私は外出で、たかちゃん障子を張ってくれますって。私はうれしいわ。
 二十日づけのお手紙、けさ着。ではこれから卵さし入れましょう。卵に声なきを如何せん。そんな詩をよんだ女は、支那の女流詩人にも居りませんね。あれほど支那の古典抒情詩の中には、「郎君今何処にあってかこの月を見ん」というのがあるけれども。この年のうちには二十六日に参ります、それが終りです。そのときは又お正月の鉢植えやいろいろさし上げます。一月二十三日は何曜日かしら。火曜日ね。お目にかかりたいようね。それでも、やっぱり行かないのはいやな気持ですから、又来年になってそちらの休みが終ったら出かけて見ましょう。大森の夫人は、全く急に行ってしまったのです、そしたら手紙が来て、弟さんの細君が医者から炊事や洗濯を禁じられているので、そっちの方へまわされて事務所のつとめではないので、と悲かんしています、これは私は可哀想に思えました。急にそういう病人になったのではないのでしょうからね。弟さんが東京へ来たときからそうなのでしょうからね。女の使かわれようとはこういうところがあるのね。寿江子が国男から、妹一人いれば普通なら女中一人いないですむのにと云われてふんがいしている、そこには又別のものがありますけれど、でもやっぱり女にはこういう気の毒なところが伴うのですね。会う人が一人もないというのはいけないから用事だけ、たまに私が会いましょうか、ときいてやったら、大いによろこんで来てそのようにたのむとのことですから、一ヵ月に一度ぐらいは会いましょう。うちを手つだって貰うと云っても、ほかの奥さんでありませんから、やはり私は気づまりだわ、古いなじみでもないのですし。家での働きをしたいとは土台思って居られますまい。
 ユリの心持への影響のこと、心つけて下すってありがとう。大丈夫よ、本質的に煩わされていないのですから。小説のモティーフが豊富になるようであるといい――そうね。本当にそうねえ。私はこう云われていることで、あなたのお心持一層感じられます、そして、そういう風な状態での受けかたです、私としても。あなたもそういう気持の肌理《きめ》でいらっしゃるのね、何とそれはこまやかでしょう。今にはじまったことではないけれども。それ自身として、よ。小説のモティーフの豊富さと云われていて、テーマがつよめられると云われていないところに無限の含蓄があります。この言葉をくりかえしかみ直し、心のゆたかさを感じ、慰めの暖かさ、こまやかな精神の肌理のつやを感じます。これは小さいが珠のような一滴ね。本当にありがとう。口のなかへ入れてのんでしまうよう。
 詩集は「暖い冬」というのです。人気ない小丘のかげに一つの池があります、その水ぎわに一本の美しい樫の樹が生えていて、静かな深い夜のうちに、明るいしずかな昼の沈黙のなかに、その若い樫の梢は不思議に伸び育って、丁度その池のまんなか、湖心というようなところにその梢の影の頂を落します。池の水はひそかな渦をそこに巻いていて、その樫の梢にふれられたとき、音なくしかも深い深いおどろきとよろこびで揺れます。渦は猶無心にまきつづけ梢は猶影をふれ、日と夜とは自然の緊張した静謐に満たされて、その微妙な調和の世界へ迷いこんだものは、一種のぼんやりした恐怖を感じるくらいです。あたりには、よろこびが正に何かに転じようとする際の音ない高鳴りに満ちている。そういうところが描かれていて、ユリは感動しつつくりかえしくりかえし読みます。そしてね、自分のかくユリという字と、ここの薄く黄色い紙の上にかかれているユリという字とを永く見くらべます。このあとのに、何という感覚がこもっているでしょう、目のなかに涙を湧かせるようなものが。
 私はあなたの方の詩集についての話もきかせて頂きとうございます。でもそれには紙が狭いのね、そうでしょう? 読むいろんなものについて書くほどの、せきはないのでしょう。そうね。
 詩集はもう一つ二つあって、この間から随分かきたかったのです。でも、そちらはどんなかと思っていたところだったから。これから又折々かいていいでしょう? 詩の話は、やはり小説のモティーフを豊富にするものですもの。
 そちらの薬はどうでしょう、私の愛用薬は今品切れなの。これは本当に残念です。あんなにいい薬だのに。御同情下さい。薬をつくるひとも原料が手に入らないのでしょう、気の毒に。
 今寿江子が来て、多賀ちゃんと初対面だもんで下で、すこしきま
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