技術家だから。
『図書』は九月でお金が切れていた由、御免なさい。そちらに通知が行ったわけでしたが。『英研』は来年四月迄ですからどうしたのかしら。しらべ中です。ユリは可笑しいでしょう? 余り詩集が目先にちらついてちらついて、かんしゃくおこして詩集を懐へねじこんでしまったという工合です。ねじこむというのが、やはり懐の中だから、又笑ってしまう、ねえ。

 十月二十八日(消印) 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 十月二十七日  第百信
 雨戸をしめた二階で机に向っていると、飛行機の音、交通整理の呼子の音がしきりにして居ます。きっと同じ音がそちらにもしているのでしょうね。門の前に立って月空を眺めながら解除まで待っていて、あがって来たところです。
 きょうは家の角でも焼夷弾練習があったりして、一日のうち何遍となく外へ出ます。その間に徳永直さんの「はたらく人々」の書評をかきました。しんそこはイージーで、岩の上を波が洗うようにこして書いていて、いい心持がしませんね。ぶつかるところへぶつかっていないところがある、どうも。その上に男の作家が女の出産の苦痛などこまかに描いているのも何だか。男としての心持からなら良人の心持の面からかくならよく分るし、一生に一度、ものをかく人ならかきたいだろうと思うところがありますけれども。この頃はこういう瑣末とっちゃん趣味がはやりでね。重治さんさえひっかかっている。市民の感情というものの解釈の問題です。
 さて、英研ね、九月十日に十月号は発送して居りますって。しかし未着ならばすぐ改めて発送すると云って居ります。そのうちにつくでしょう。やはり予約は四月迄あります。
 きょうは行きそうにかきましたけれど、考えて見ればおきまりの人があるのですから、おやめにいたしました。きょうの午後信濃町の先生かえられました。すぐ都合問い合わせておきました。電話かけたらね、おばあさんが、迎えに出る時間でも問い合わせたかと勘ちがいされて、「ありがとうございます」としきりに云われたには恐縮しました。近日中にわかりましょう。
 きょうは珍しいでしょう。戸外へかけ出したり、書評かいたり、その間には、あなたの綿入れをこしらえる手つだいをしたりいたしました。
 派出のひとの感情は面白いものです、そこの土地にいついていない心持だから、防空演習なんか自分に関わりなしという風なの。これ
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